最高裁 相続分の無償譲渡は『贈与』 上告人の遺留分請求を認める
2018/10/25
亡父の遺産を相続する際、母親が自身の相続分を子Aに無償譲渡したことで、母親の死亡時に、譲渡されなかった他の子が、母親の財産を受け取ることができなかったとして遺留分を請求した争いで、最高裁第2小法廷はこのほど、「共同相続人間においてされた無償による相続分の譲渡は『贈与』に当たる」との判断を示した。
父親は平成20年12月に死亡。その妻(母親)は、子Aにすべての相続分を譲渡し、遺産分割調停手続から脱退。母親は、平成22年8月、その有する全財産を子Aに相続させる旨の公正証書遺言をした。その後、母親の死亡にともない、相続分譲渡を受けなかった他の子が、母親から子Aに対する相続分譲渡によって遺留分を侵害されたとして、子Aが亡父の遺産分割調停によって取得した不動産の一部についての遺留分減殺を原因とする持分移転登記手続等を求めて裁判となった。
争点は、母親による相続分譲渡が、母親の相続において、その価額を遺留分算定の基礎となる財産額に算入すべき『贈与』に該当するか否か。
高裁では、「相続分の譲渡による相続財産の持分の移転は、遺産分割が終了するまでの暫定的なものであり、最終的に遺産分割が確定すれば、その遡及効によって、相続分の譲受人は相続開始時に遡って被相続人から直接財産を取得したことになるから、譲渡人から譲受人に相続財産の贈与があったとは観念できない」、また、「相続分の譲渡は必ずしも譲受人に経済的利益をもたらすものとはいえず、譲渡に係る相続分に経済的利益があるか否かは当該相続分の積極財産及び消極財産の価額等を考慮して算定しなければ判明しないものである。したがって、本件相続分譲渡は、その価額を遺留分算定の基礎となる財産額に算入すべき贈与には当たらない」としていた。
これに対して最高裁は、「相続分の譲渡は、譲渡に係る相続分に含まれる積極財産及び消極財産の価額等を考慮して算定した当該相続分に財産的価値があるとはいえない場合を除き、譲渡人から譲受人に対し経済的利益を合意によって移転するものということができる。遺産の分割が相続開始の時に遡ってその効力を生ずる(民法909条本文)とされていることは、以上のように解することの妨げとなるものではない。したがって、共同相続人間においてされた無償による相続分の譲渡は、譲渡に係る相続分に含まれる積極財産及び消極財産の価額等を考慮して算定した当該相続分に財産的価値があるとはいえない場合を除き、上記譲渡をした者の相続において、民法903条1項に規定する『贈与』に当たる」と判断。高裁に審理を差し戻した。